『ナビィは最後どうなったのか』
23年間議論され続けているこの謎を、考察してみた。
ナビィとリンクの別れ
ガノンを倒し、リンクとナビィは本来自分たちがいるべき七年前の世界に帰還する。
ここは時の神殿で、目の前には台座にささったままのマスターソード。
"ガノンドロフが聖地へ侵入する以前"だ。
すると、ナビィは突然リンクの周囲をふわふわと舞ったかと思うと、そのまま空高く飛んでいき消えてしまう。
これがリンクとナビィの別れである。
ナビィはどこへいったのか。
何故何も言わず消えてしまったのか。
そのあまりにも突然の別れは、23年経っても未だに様々な意見が飛び交っている。
ナビィの最後を考察する上で、少し遠回りにはなるがまずは「コキリの森」と「コキリ族」について考えていきたい。
大人時代 コキリ族はなぜ森の外へ出たのか
コキリ族は"森から出ると死ぬ"と言われている。
だがハイラルに平和が戻った後、エンディングでコキリ族は森の外へ出ている。
大人時代、彼らは七年前と変わらず森で暮らしていたし、デクの樹サマの子供が生まれたことで森は浄化され、その後遥か先の時代まで(※1)コキリ族は繁栄し続けた。
※ 1コキリ族は風のタクトの冒頭『神によるハイラルの水没』の直前まで存在が確認されている。その時代では、時オカが"伝説"とされていることから時オカから比較的長い時間が経過している。
何不自由なかったはずだ。
森にいれば今まで通りの暮らしができたはずなのに、何故あれだけ拒絶していた森の外へ出たのだろうか。
ハイラル百科P46によると、"デクの樹サマの子供が生まれてからは森という檻から解き放たれたかのように外へ出ることも可能となった"とある。
単に行動範囲が広がったともとれるが、個人的な意見としては、当時のコキリ族は森の外で生きる道しか残されていなかったのではないか、と思う。
何故ならエンディングでは、彼らの元からコキリ族の象徴である妖精がいなくなっているからだ。
妖精がいなくなった理由として、私はこう思う。
コキリ族や妖精、この森の全ての生き物はデクの樹サマから生み出されたとされている。
例え子供が生まれようが彼らの親はデクの樹サマであり、デクの樹サマの死は少なからず彼らに影響を与えたのではないだろうか。
親である森の精霊を亡くしたことで、彼らや妖精も死にゆく運命なのだとしたら…
妖精は体力を回復してくれる。すなわち妖精とは生命力である。
それが無くなるということは、死を意味する。
コキリ族が森から出たら死ぬと言われていたのは、デクの樹サマの力の及ばない場所では歳をとるからだ。
ここでいう死とは"寿命"なのだ。
たとえ妖精が死んでしまったとしても、コキリ族は子供ゆえにまだまだ先は長いだろう。
しかし、彼らもいずれ歳を取り死ぬ運命にある。
森でスタルキッドと成り果てるか、森の外で人間して生きるか。
彼らの元から妖精が消えた時、コキリ族は森の外へ出る決意をしたのではないだろうか。
ハイラルから脅威が消え去る時、妖精もまた消えゆく運命だったのかもしれない。
これが大人時代のコキリ族とコキリの森の考察だが、次はこの大人時代の考察を前提として、子供時代を考えてみる。
子供時代 コキリの森はどうなるのか
大人時代、当時のコキリ族はそのような運命を辿ったものの、コキリの森の平和は続く。
それは、森の神殿の呪いを解いてサリアが賢者として覚醒し、デクの樹サマの子供が生まれコキリの森の未来は守られたからだ。
その一方で、子供時代はどうだろうか。
森の神殿へはいかずサリアは賢者として覚醒しない。
ということは、子供時代はデクの樹サマの子供が生まれない可能性がある。
その後、精霊のいない森は衰退していったものと考えられる。
事実子供ルートでは時オカ以降コキリ族やデクの樹サマの存在は確認できていない。
子供時代のコキリの森は、滅びる運命だったのではないだろうか。
ナビィの最後
そう仮定すると、未来から帰還した時、ナビィは悟ったのではないだろうか。
7年後の未来から帰還した場所。
ここは時の神殿。森の外。
すなわちナビィたちが戻った世界は、虚しくもデクの樹サマの死後の世界で(※2)、コキリの森の未来はない世界だった。
※2帰還したのは、中庭で初めてゼルダに会う直前だとされている。時の扉前に精霊石は見当たらないが、森から出ていること、リンクが精霊石を持っているという夢のお告げがあることから既にデクの樹サマ攻略後であると推察する。
たとえ7年後の世界を救ったとしても、自分に待ち受ける未来はないのだと。
そう悟ったのかもしれない。
ナビィは森の妖精たちとは違い、デクの樹サマの元を離れ世界中を飛び回っていた。
「闇の波動で ナビィ 近づけない!」
ガノンドロフとの戦いでは、ナビィは近づくことすらできなかった。
「ナビィ もう逃げない! いっしょに 戦う!」
ラストはそれ以上の戦いであったにも関わらず、ナビィはリンクの側で共に戦った。
「弱点なんて 分からないよ!」
冒険の始まりから幾度となく助言をし、手助けしてくれたナビィですら理解できなかった。
何度聞いてもナビィは助言できなかった。
理解できない怪物を目の前に、デクの樹サマとの約束を守るため、大切な友であるリンクのために。
最後はせめて、側にいたかったのかもしれない。
闇の波動を受け続けたナビィは酷く消耗していたはずだ。
それでも最後まで使命を果たすことを諦めはしなかった。
そんな状態で帰還した世界に、デクの樹サマはいなかった。
森の未来もなかった。
ナビィの意識は既に限界だったのかもしれない。
ただ光に導かれるように、身を任せたのかもしれない。
飛び立つ前に、ナビィとリンクがほんの一瞬だけ見つめ合う。
リンクは後を追うことも、悲しむことも、振り返ることもせずゼルダの元へ向かう。
ナビィは何も言わなかったのだろうか。
だとすればリンクの行動は少し不自然ではないだろうか。
きっと、リンクには伝えたはずだ。
だからリンクは別れの後、あんなにも潔くゼルダの元へ向かうことが出来たのだ。
教会の鐘が鳴る。
このハイラルという世界の平和を祈り、祝うかのように。
教会の鐘は神への祈りを告げるもの。
特別な式典では祝福の鐘が鳴る。
人生の節目にも鐘が鳴る。
鐘の音は、時に死者への哀悼の意を捧げる音となる。
時の神殿に少なくとも目視できる範囲に鐘はない。
あの鐘がどこで鳴っているのかは分からない。
どこからともなく聞こえるあの音は、ハイラルの平和とナビィへの追悼の鐘だったのかもしれない。
「森へ帰るね また 会おう!・・・」
ナビィは、大切な友を傷つけないように
そう伝えて旅立ったのではないだろうか。
友を探して
リンクはゼルダの元へ向かい、未来で起こる一部始終を話した。
自分に託された使命はこれで終わった。
その後おそらく真っ先にコキリの森へ向かっただろう。
だが、いくら探してもナビィの姿はなかった。
「デクの樹サマに なに したの?」
「オマエのせいで デクの樹サマがシンんじゃった」
デクの樹サマの死後、皆は冷たく、リンクを責める人もいた。
自分は未来でこのハイラルを、彼らの未来を救った。
けれどそれを証明してくれる友はどこにもいない。
リンクは居場所がなかったのかもしれない。
リンクは7年の歳月で身体は成長しても、無の時間を過ごしただけの7年で、心の成長まではしなかったはずだ。
たとえ大人を経験してもそれは身体的なものだけで、心は少年のままだった。
"森へ帰る"
ナビィの優しさを素直に受け止めたがゆえの感傷だろう。
リンクは冒険の最後で別れたかけがえのない友を探すため、森の奥へ奥へと歩み続けた。
広がる世界
この直後からムジュラの仮面に繋がるわけだが、結局最後までナビィには会えなかった。
しかし、その数百年後のトワイライトプリンセスに登場するイリアは、デザイン案では額にナビィマークが描かれていたことから、ナビィはイリアとして生まれ変わるような構想もあったのかもしれない。
(画像引用:ハイラルヒストリアP180)
もしかしたらトワプリの妖精界の女王とされている大妖精こそナビィの生まれ変わりかもしれないし、そもそも死んでおらず森でひっそりと暮らすことを決意したのかもしれない。
冒険の数だけストーリーがあり、それぞれの思い描く世界がある。
ナビィがどうなったかは想像に委ねられているのだろう。
イリアのナビィマークは、なぜ実現しなかったのだろうか。
ナビィはどこにもいってなんかいない。
ナビィはナビィのままで、今もリンクの記憶の中に生き続けているからだと。
ふとそんな気がした。
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