『ムジュラの仮面』の怖さを知ることは自己を見つめることと同義である ーLoMー
タルミナ。
そこは3日後に滅びる世界。
最期の日、24時。
『刻のカーニバル』を祝う花火が盛大に打ち上げられる。
午前6時。
閑散とした町に響き渡る轟音。
着実に迫る滅亡。
大気圏に突入した月は激しく燃え、地上へと容赦なく襲い掛かる。
世界は炎に覆い尽くされる。
カタルシス。
時の歌を奏で、3日前に戻る。
タルミナの住人に記憶の蓄積はなく同じ3日間を繰り返しているようだが、リンクとチャットは記憶を保持したままである。
いったい何度やり直しただろうか。
強敵に立ち向かうたび、仮面の持つ力の恐ろしさを知った。
同時に、人々の悩みを聞き、助け、癒し、感謝されるたび、この世界への希望を見出していった。
かつての思い出が蘇る。
もう一度世界を救い、今度こそ"勇者"になれるか。
けれど、この時リンクはタルミナという奇妙な世界が一時的に創られた異世界だということは、まだ知る由もなかった・・
この世界を構築しているのは、スタルキッドの記憶と妄想である。
スタルキッドから生み出された人々と、そこに迷い込んでしまったリンク。
では、お面屋は?
彼は一体何者なのか。
今回は、そんなタルミナの様々な人物を考える、『人物編』
それでは、気になるあの人たちを、調べていこう。
『タルミナ編』はこちら
チンクル
緑の全身タイツに真っ赤なパンツ。
風船でふわふわと空を飛びながらマップを描くマップ職人、チンクル。
自分のことを妖精の生まれ変わりだと信じる35歳の独身である。
このキャラクターを生み出したのはご存知、今村孝矢氏だ。
ムジュラの仮面のデザインから、チンクルのような強烈なキャラクターを生み出した鬼才である。
"風船でフワフワ浮いてる人を作って欲しい"というオーダーも今村氏の手にかかればあれの誕生である。(実はモデルとなったスタッフがいるのだとか)
"チンクル"という名前についてはリンクという響きと合わせて名前を考えたとされており、チンクルとリンクはどうやら無関係とはいえなさそうだ。
まさかではあるが、チンクルはスタルキッドの記憶から生まれた"いつまでも妖精の来ないリンク"なのだろうか。
スタルキッドの記憶の片隅に、そのような心配があったのかもしれない。
執事の息子
スタルキッドに呪いをかけられたリンクはデクナッツの姿へと変身してしまう。
その後、ゴロンとゾーラの魂も癒して仮面を手に入れていくわけだが、それらは全て死んでしまった者達である。
ダルマーニ3世については、異変の起きたスノーヘッドの魔物を退治しにいく道中に、崖から落ちて死んでしまう。
ミカウについてはゾーラバンド、ダル・ブルーのメンバーで恋仲であるルルのたまごを取り返しに海賊を追うも、海で瀕死の状態となりそのまま亡くなってしまった。
だが、デクナッツに関しては、それが誰の魂で何故死んでしまったのかは、結局語られることはなかった。
資料集によると、ハイラルとタルミナの境界にあるあの木こそが執事の息子であり、またリンクに宿ったデクナッツだと明記されている。(参考:ハイラルヒストリアP112、ハイラル百科P242)
すなわち、リンクに憑依したデクナッツは、執事の息子なのである。
では、何故執事の息子は死んでしまったのだろうか。
リンクが呪いにかけられた際、大勢のデクナッツに襲われる幻覚を見ていたが、それが彼が最期にみたものだろうか。
いやしの歌で魂を癒した時に、リンクがこのデクナッツに手を振って別れる描写があるが、それが執事の息子なのかは疑問である。
幻覚のデクナッツはオコリナッツであるが、執事の息子はぬけがらのエレジーを奏でるとオコリナッツではなくどちらかというと"チョロナッツ"に近い。
デク国の国王の間にいる彼らはオキナッツ(翁=老人)であり門番及び警備にあたる彼らはチョロナッツ(オキナッツと見た目が近く、葉の数が同じであることから同種の若年層かと思われる)であるが、執事の息子は恐らくそれよりも幼いチョロナッツだろう。
こんな幼い子供に何があったのか。
このチョロナッツを見た人達はなぜか、辛辣な言葉を口にする。
きっと辛かっただろう。
デク国という独特な王制で集団心理が働いたか。
ムジュラの仮面の、まだ月に顔がない初期の絵。
それを見たとき、思わず目を疑った。
(画像引用:ハイラルグラフィックスP42)
執事の息子の死因が示唆されているのか。
あくまで想像でしかないが、リンクが幻覚で味わった苦しみは彼の苦しみそのものだったのかもしれない。
ズボラとガボラ
山里の小屋で鍛冶屋を営むズボラとガボラ。
ズボラは怠けているがガボラの腕は確かなもので、コキリの剣をフェザーソード、金剛の剣に鍛え上げてくれる。
彼らはどうもタルミナ以外でも活躍しているようだ。
『風のタクト』の中ボス、ファントムガノンの持つ剣には、「ズボラガボラ」の銘がある。
ファントムガノンは魔の力で生み出された幻影であることから、異世界や異次元の存在と考えられる。
ズボラとガボラは異世界において名の知れた刀鍛冶なのかもしれない。
ナベかま亭の幽霊
ナベかま亭で起こる心霊現象はトイレの手だけではなかった。
アンジュさんのおばあさんの部屋に飾られている思い出の詰まったいくつもの写真。
若き日の家族写真、おばあさん、そして
おじいさん・・
肩・・
おばあさんはおじいさんの愛読書を大切に持っていることから、恐らくおじいさんは既に亡くなっている。
そしてその息子でありアンジュさんの父親であるトータスについては、謎の失踪を遂げている。
おじいさんに憑く謎の手と、トータスの失踪。
そして夜な夜なトイレで紙を求める手の幽霊。
ナベかま亭はお祓いを受けた方がよさそうだ。
アンジュとクリミア
この二大ヒロインを語らずしてムジュラの仮面は語れない。
結婚前で浮かれていたというカーフェイは、スタルキッドのイタズラによって子供の姿へ変えられ、更にはスリのサコンに婚礼のお面を盗まれてしまうというとんだ災難に見舞われる。
カーフェイはお面を取り返すまでは婚約者であるアンジュさんに会うことができないと、身を隠している。
突然行方をくらました恋人を心配しながら待ち続けるアンジュさん。
そんなカーフェイに密かに恋心を抱く、クリミアさん。
アンジュ派、クリミア派の議論が全国各地で勃発したことだろう。
カーフェイを待ち続けるアンジュさんの不安は日に日に増していく。
クリミアさんは父を亡くし、ゴーマン兄弟から嫌がらせを受け、妹は宇宙人に連れ去られ別人のように変わり果ててしまった。
それぞれ悲しみや辛さを抱え、カーフェイに縋りたかった。
おそらくアンジュさんはクリミアさんの気持ちに気付いていたのだろう。
不安からか、親友であるクリミアさんを疑ってしまう。
しかし、牧場に避難するも、そこにカーフェイの姿はない。
親友を疑い恋人を待てず、激しく後悔するアンジュさん。
あぁ・・
時を戻してアンジュさんの望みを叶えることなら出来る。
だが、挙式に参列するクリミアさんのなんとも言えない雰囲気に少し罪悪感が湧く。
とりあえず、クリミアさんにギュっとしてもらおうか。
こんな実体験があったのだろうか。
ムジュラの仮面で起こるイベントは、どの部分かは不明だが青沼氏と小泉氏、それぞれの奥様とのエピソードも含まれているらしい。
つい勝手な想像をしてしまう。
アンジュさんとクリミアさん、どちらに共感できるか、どちらがタイプか。
その熱い議論は、無知な自分に多くの気付きを与えてくれたものである。
しあわせのお面屋
最後に、本作最大の謎を抱える人物、しあわせのお面屋について考えていく。
・ムジュラの仮面の入手
物語の元凶である「ムジュラの仮面」というのは、太古のとある民族が呪いの儀式に使っていた呪物だとされており、お面屋がどこかの旅先で苦労して手に入れたものだそうだ。
その大切なお面をスタルキッドに盗まれてしまったことから全てが始まる。
ムジュラの仮面を入手した経緯は不明だが、時のオカリナではお面屋は子供時代の途中からハイラルに現れ、大人時代には姿を消し、ガノン討伐後にまたハイラルに戻っている。
リンクが聖地で眠りについている間に、お面屋はハイラルを出てムジュラの仮面を手に入れたと考えることもできる。
もっとも、お面屋が時のオカリナのお面屋と同一人物と仮定した場合の話ではあるが。
・お面と仮面
お面のついての呼び方はいくつかあり、それぞれ意味合いも異なる。
デクナッツ、ゴロン、ゾーラ、巨人、鬼神、そしてムジュラは「仮面」と呼ばれ、ボスから剥ぎ取ったものは「亡骸」。その他は「お面・ボウシ・ずきん」と表記される。
個人的な解釈になるが、仮面とお面の違いについては、魂が宿り、被った人に憑依するものが「仮面」であり、感謝やしあわせが詰まったもの、いわゆる"感謝のきもち"のようなものがこの世界では「お面」という形で現れると考えている。
ムジュラの"仮面"も、かつてはデクナッツ達と同じように本来の姿があったのだとしたら、それは「ムジュラの魔人」なのだろうか。
ムジュラの魔人もまた「いやしの歌」によってその邪気と共に仮面に封じられていたのだろうか。
・お面屋の居場所
タルミナでのお面屋の挙動はこの上なく奇妙であり、その不自然さから彼が生きているのかすら判断がつかない。
「あと3日でここを去らねばならない」と、この世界が3日後に終わることを知っていたり、デクナッツの姿に変えられたリンクを戻す方法や、全てのお面の存在まで熟知していた。
この男は人智を超えている。
ここで再度、ムジュラの仮面3Dのメインビジュアルを参考にさせてもらうと、多数のキャラクターが描かれている中で、リンクとデクナッツリンク、ゴロンリンク、ゾーラリンク、大翼のダンナ、チャットとトレイル、スタルキッド、そしてお面屋だけコントラストがはっきりしているのが分かる。
(画像引用:HISTORY | ゼルダの伝説ポータル | Nintendo)
それが意味するものはおそらく、妄想から生まれた人物か、そうでないかだと推測する。
お面屋もリンクと同じくタルミナに迷い込んでしまった側の人物であると思われるが、それよりももう少し特別な立ち位置にいるような気がしてならない。
というのも、お面屋は時計台の中から一歩も出ない。
常に時間が流れているタルミナで、時間の影響を受けない場所がある。
それが、月の中と、時計台の中。
すなわち、お面屋は時の流れの外にいるのだ。
月の中と時計台の中の共通点はそれだけでない。
その両方にお面屋がいる。
タルミナにおいて「時間」とは運命を左右するほど重要なものであり、それが通用しないのは、タルミナとは隔てられた空間だからかもしれない。
だとしたら彼がいるのは、タルミナにあって、タルミナでない場所。
月の中だ。
・月とムジュラ
月とは"ムジュラの仮面"であると考えている。
詳しくは次回で書く予定だが、そう考えられる理由がいくつかあるのでそう仮定する。
タルミナがスタルキッドで、月がムジュラの仮面。それらは本来別物でありながらこの世界では併存している。
お面屋がタルミナではなく月の中にいるとするならば、それはムジュラの仮面の中に存在しているともいえる。
月は全てを喰い尽くすつもりでいた。
お面屋は、まさか月に喰われたのか。
リンクが時の歌を奏でなければタルミナは滅亡、つまりこの世界そのものが消滅してしまう。
ムジュラの仮面を倒さない限りは、永遠にこの世界から抜け出せない。
なんらかの理由でムジュラの仮面に取り込まれたお面屋はムジュラと意識を共有していたのだとしたら、ムジュラの目的や世界を破壊する力、更にはそれに対抗する術やムジュラに打ち勝つ方法すらお面屋には理解できていたのかもしれない。
だが、自分の力ではどうすることも出来ず、この世界から脱出するためにリンクにムジュラの仮面の奪回を頼み、運命をリンクに託し、またこの世界を救ってくれることも確信していたのではないだろうか。
・お面屋との別れ
ムジュラの魔人を倒すと月は消滅した。
最後にお面屋はタルミナ平原に現れて別れの言葉を口にしたあと、そのまま消え去った。
タルミナとハイラルを繋ぐ扉など、彼には不用なのだ。
出会った時に感じた奇妙で言葉にできない違和感は、最後まで変わらなかった。
そしてその違和感の正体が今ハッキリと見えたような気がする。
お面屋にだけ影が描かれていないのだ。
お面屋は初めから死んでいたのではないかと、そんな想像が頭をよぎる。
スタルキッドに仮面を奪われた時、お面屋は森の中で倒れていた。
その時はまだスタルキッドはムジュラの仮面を手にしていない。
力を持たないイタズラ好きの小鬼が、大人の男性が気を失うほどの何をしたのだろうか。
そこは森である。
スタルキッドや妖精がいる時点で、"普通の森"ではないことは明らかだ。
ハイラルの森は、本来人間は立ち入ってはいけない場所。
お面屋は、スタルキッドにお面を"盗まれた"のであり"襲われた"とは言っていないし、どこにも書かれていない。
お面屋は、迷いの森の瘴気で既に死んでいたのだとしたら。
そこにたまたまスタルキッドたちがやってきて、仮面を盗んだ。
お面屋の魂はムジュラの仮面の中に宿ったのか、それともタルミナで月に喰われたのか、あくまで想像でしかないが。
お面屋の本当の目的は、自分自身が成仏されたかったのかもしれない。
ムジュラの仮面の消滅によって、お面屋の魂も同時に解放され、彼は天界へと帰っていったのだろうか。
七年後、ハイラルから脅威が去った後、お面屋はロンロン牧場で仲間たちと歌い踊った。
その歌は、どこか懐かしい、サリアの歌だった。
"しあわせ"
かつての並行世界で、実にたくさんのしあわせを見てきた。
それを叶えてくれた時の勇者は、"しあわせ"が何かを、充分に理解していたはずだ。
第三回へ続く
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