森を抜け、初めて目にした世界は余りにも広くて圧倒された。
冒険や戦いにワクワクさえし始めた子供時代から一変、時の神殿から出た瞬間の、恐怖の城下町。
この衝撃はおそらく一生忘れない。
大人時代、まず初めに向かうのは「森の神殿」
その廃れた洋館は、井戸の底や闇の神殿とはまた違った怖さがある。
以前サリアと話したこの場所は、どこか安心できる場所だったのに。
それも遠い過去と成り果て、今や魔物が巣喰い幽霊が彷徨う恐怖と館となっている。
当時子供だった私は"自分には早すぎる"とここで諦めてしまった。
思い出に浸るのはここまでにして、今回はこの「森の神殿」について考えてみる。
森の神殿とは
森の神殿とは、迷いの森の奥深く「森の聖域」と呼ばれる場所にある。
デクの樹サマに会う前に行ってみたところ、その時点ですでに外壁にはツタが生い茂り、館へ続く外階段の原形はなかった。
一体いつからあるのだろうか。
デクの樹サマとお別れ後、外の世界へ出た頃からサリアがここでオカリナを吹いている。
「ふたりにとって すっごくだいじな場所になる」
そう予感していたサリアは後に賢者としてリンクの力となるのだが、その事をすでに感じ取っていたのだろうか。
賢者の自覚が目覚め始めていたのかもしれない。
大人時代、森の聖域の魔物はより凶暴化し、神殿へ続く通路にはボスブリンが立ちはだかる。
廃墟となった不気味な空間。
中庭や井戸、館内の至る所に飾られた絵画。
スタルフォスやポゥは人に由来する魔物である。
かつて人が生活していたのだろうか。
森の賢者の紋章と、最奥にはトライフォースの魔法陣らしきものが描かれた怪しげな部屋。
ハイラル王家に関係する施設なのだろうか。
各地の神殿
「神殿」と呼ばれる場所はハイラル各地に6つ存在する。
時の神殿、森の神殿、炎の神殿、水の神殿、闇の神殿、魂の神殿。
大人時代、聖地へ侵入したガノンドロフは魔王となり、ハイラル全土が魔の国へと変貌した。
ハイラル城はおろか、コキリの森や神殿も例外ではなかった。
魔の手に落ちた神殿の呪いを解くと、賢者が目覚めるのだという。
中でも、水の神殿と魂の神殿には"神"の存在があったとされる。
ハイラルといえば"女神ハイリア信仰"であるが、統一戦争(※1)以前はもっと各々の神を自由に信仰していたのではないだろうか。
※1 各地で種族間の紛争が絶えなかった時代、ハイラル王家が戦乱を鎮めハイラル全土をハイラル王国として統一した
魂の神殿の巨大な女神像は、宗教思想の違いゆえ"巨大邪神像"と呼ばれていることもあり、ゲルド族はハイリア人と異なる神を信仰していたといえる。
神殿とはそれぞれの神を祀る場所だったのかもしれない。
とはいいつつも、闇の神殿のように神とは対照的な場所が存在するのも確か。
共通しているのは、大人時代、賢者たちは皆神殿にいたということ。
言い伝えでは『世界が魔に支配されし時 聖地からの声に目覚めし者たち 5つの神殿にあり』とある。
賢者たちがそこにいたのは偶然ではなく運命として定められていたのだろう。
四姉妹の幽霊 その正体とは
このように各神殿の在り方は様々かもしれないが、水や魂の神殿がそうであるように、私は森の神殿も神に関連する祭事施設であったと推測する。
というのも、四姉妹の幽霊については、神官だったという情報があるからだ。(参考:ハイラル百科P.147)
神官とは、現実世界でいうと"神を祀る施設などで神事を執り行う人"のことを指す。
ゼルダの世界では少し特別で、"神聖な力で聖地の守護などを務める賢者の血筋"が神官だとされている。(参考:ハイラル百科P.20)
そのことから、四姉妹は神聖な力を持つ賢者の血統であったと考えられる。
生前森の神殿で仕えていた神官の四姉妹は、ガノンドロフの呪いによってポゥ(※2)となってしまったのだろう。
※2 ポゥとはこの世に未練を残して死んだ者の魂が魔物化したもの。スタルフォスなどのスタル類は戦いで命を落とした兵士であることが多く、ポゥとスタル類は概念が異なるのである。
神殿を守るため抵抗したであろう四姉妹は、皮肉にもこの神殿に取り憑きリンクを妨げる存在となってしまったのだ。
無念な彼女たちだが、心の奥底では願っていたのだと思う。
長女のメグは、戦いの前にひっそりと泣いていた。
最深部へ続く燭台に火を灯し、自らの魂を解放して欲しかったのかもしれない。
この神殿を、悪霊となってしまった自分たちを解き放てるのはリンクしかいない。
助けを求めていたのだろうか。なんとも切ない戦いである。
森の賢者
最深部に通じるエレベーターは、四姉妹それぞれが持つ炎を燭台に灯すことで稼働する。
その絢爛な燭台は、森の神殿以外にもあったのを覚えているだろうか。
デクの樹サマの中だ。
四姉妹はデクの樹サマとも面識があったのだろうか。
水の賢者ルトがジャブジャブ様の世話係として食事を与えたり日頃から体内に入っていたように、四姉妹もデクの樹サマの中で時折メンテナンスをしていた、なんて想像もつく。
(後に魂の神殿でも同じ燭台を見つけてしまったことを白状する。単なる考え過ぎかもしれない)
個人的な予想でしかないが、四姉妹は「森の賢者」だったのではないだろうか。
勿論"死んでいなければ"の話である。
サリアが賢者として目覚めたのは森の神殿攻略後で、それによりデクの樹のサマの子供が生まれたことから、デクの樹サマの子供が生まれる以前は賢者は不在だったと考えられる。
しかし、サリアが賢者として目覚めたことについてハイラル百科P.46には"賢者が復活し"との記述があり、この"復活"という言葉は、それ以前の賢者の存在を肯定するものといえる。
すなわち、賢者空白の期間があったと推測する。
先程の『世界が魔に支配されし時 聖地からの声に目覚めし者たち 5つの神殿にあり』という言い伝えから、賢者は世界が危機に陥った時に覚醒するのだとしたら、ガノンドロフが魔王となる以前は賢者の資格があってもその自覚はないものと考えられる。
本来、森の賢者として目覚めるのは四姉妹だったのかもしれない。
ガノンドロフに殺害されてしまったことで森の賢者の役割はサリアに託され、サリアは度々神殿に訪れるようになったのだろうか。
では、四姉妹はいつ死んでしまったのだろう。
冒頭から神殿への階段が崩壊していたことを考えると、デクの樹サマが呪いにかけられたと同時に襲撃されたという可能性もあり得る。
だとすれば七年前、サリアと二人でオカリナを奏でたあの時、すでに館の中で四姉妹は死んでいたこととなる。
イタズラっぽく遊びを用いた仕掛けは、なんだか幼き四姉妹が久々の来訪者を喜んでいたかのようにも思えてくる。
「森の神殿」は、かつてそんな四姉妹が平穏に暮らしていた場所だったのかもしれない。
賢者も人それぞれ
ラウルのように古の時代から賢者として君臨し、使命を全うした者。
ダルニアのようにキョーダイのためアツく運命を受け入れた者。
ナボールのように堂々と受け入れる者。
自分の運命に対する見方はそれぞれだ。
サリアはコキリ族であり永遠の子供。幼いサリアにとっては賢者としての使命は重かったのかもしれない。
「森の賢者なんてなりたくなかった…」
それがサリアの本音だ。
賢者になってからのサリアの表情は暗い。
賢者である前に、ひとりの子供なのだ。
けれど、リンクが神殿を解放したことでサリアは希望を見出していた。
リンクと一緒だったことが、サリアにとって唯一の救いだったのだろう。
かつて森の神殿で断念してしまったこと。
今思えばサリアに申し訳なかったと思うのであった。
《動画》